店長のなんでもレビュー
広くディープな趣味を持つ店長が、その好奇心を生かして
ジャンルを問わず興味を持った物を紹介、批評して行きます。

第一回は 片山恭一著 「世界の中心で愛をさけぶ」


 単行本は空前の300万部突破、映画は大ヒット、そして現在はドラマが放映中と今だに話題の「世界の中心で愛をさけぶ」を遅ればせながら、先日読みました。

 普段は、生来の天邪鬼な性格からベストセラーは基本的にあまり読まない私ですが、ヒロインが難病の純愛悲恋ものと言う、古今東西あまりに多くの文芸作品で繰り返し描かれてきた題材、テーマであるにもかかわらず何故にここまでヒットしているのかと言う点で以前から大変興味は持っていました。
 それでも自分で本を買う気にはならず、図書館ではいつ借りられるか分からないくらい予約が入っていると、読みたくてもなかなか読む機会が無かったのですが、そんな折り、得意先の奥さんがこれを読んで「泣けてしょうがなかった。是非読んだ方がいい。」と、本を貸してくれたのでようやく読むことが出来ました。

 読んだ印象は「う〜ん、分からん」というもの。もちろん内容が理解出来なかった訳ではなく、何故多くの人がこの作品に感動して涙したのかがです。読む前にもっていた疑問は、読んでさらに深まったと言う感じです。人物が深く描かれている訳でもないし、ストーリーは想像していたとおり手垢が付いて目新しいところも無い、文章もなんでもない文章で、ただ難病のかわいそうな少女が出てくるだけの小説です。読んだ後、どこが多くの人の心をうったのか本当に考え込んでしまいました。私は残念ながら涙は出ませんでした。

 先に、古今東西あまりに多くの文芸作品で繰り返し描かれてきた・・・と書きましたが、例えば私の好きな作品の中でも小説では武者小路実篤の「愛と死」(この作品は「日経エンタテインメント!」2004年8月号でセカチュウ度90%とされたらしい)、堀辰雄の「風立ちぬ」、伊藤左千夫の「野菊の墓」、ノンフィクションでは「愛と死をみつめて」などがあります。
 
 中でも河野実と大島みち子の往復書簡集である「愛と死をみつめて」は大ベストセラー(私の所有している本は135刷だが、日付をみると初版からたった半年後である!)になり、吉永小百合主演で映画化され、その後ドラマ化、そして主題歌もその全てが大ヒットと言う正に元祖「世界の中心で愛を叫ぶ」と言う作品でした。
 
 創作と実話の違いはありますが、その違い以上に両者の感動には大きな差を私は感じました。もちろん「愛と死をみつめて」の方が深く大きな感動があったのですが。

 ただ「世界の中心で愛をさけぶ」にも、物語に深みを持たせられそうな要素はありました。それは、ヒロインがたびたび触れるオーストラリアの先住民アボリジニのエピソードです。
 しかし、この扱いが残念ながら未消化であり、全体の中でどうにも唐突な印象を受けました。これが、物語の中で、より馴染む形で挿入され全体的に整合性を持たせられたならば、単なる難病もの以上の作品になったと思われるので残念です。

 私は、このように300万部に見合った感動は得られなかったのですが、多くの人はどんな感想をもったのだろうか?と思い、そこでアマゾンの読者レビューを見てみたのですが、これだけ大ヒットしているにもかかわらず770のレビューの平均が五つ星中、2.5と異様に低いものでした。私の感じた疑問は大部分の人達も感じるところだったようです。 

 特に読書家と思われる人たちが辛辣な評価をしていますが、だからと言って私は、この小説を読んで感動した人たちをおかしいだのなんだのと言う気は全くありません。10年以上前やはりベストセラーとなり、映画化までされた「一杯のかけそば」と言う作品がありました。
 この作品は、その後作者の栗良平が詐欺罪で逮捕されたことにより、急速に世間から忘れ去られました。私はこの時も思いましたが、いくら作者が逮捕されようと、ここに描かれたような家族に同情する気持ちは人間としてとても大切なものだし、同様にいくら小説の出来が悪くても「世界の中心で〜」の難病で若い命を落とす少女に対して同情し涙する気持ちは大切だし、馬鹿には出来ないと思うのです。

 若者の読書離れが言われるようになって久しいですが、この作品がきっかけになって、またこれと似たような小説を読んでみたいと思い、若い人達がそれこそ「愛と死」や「風立ちぬ」などの過去の名作を読むようになり、その中で文学に目覚める人が生まれれば、それはそれでこの小説が大ヒットした意義はあったと思います。

 「世界の中心で愛をさけぶ」と言うタイトルも、最初は別のもので、編集者により「新世紀エヴァンゲリオン」の問題の最終話のタイトル「世界の中心でアイをさけんだけもの」から拝借され(このエヴァのタイトルもSF小説「世界の中心で愛をさけんだけもの」のパクリですが)つけられたと言うのも、今では良く知られるところです。また詩集のような洒落た装丁や帯に書かれた人気女優の推薦文の効果等々、マーケッティング次第で凡庸な作品でもここまでのヒットになると言うことを世間に知らしめたのが、この作品の一番の功績なのではないでしょうか。正しくマーケッティングの勝利と強く感じました。
 
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